漆について
- 下地(したじ)
- 本堅地(ほんかたじ)
- 拭き漆 又 摺漆(すりうるし)
- 立塗(たてぬり)又 塗立 又 花塗
- 呂色塗(ろいろぬり)
- 木地呂塗(きじろぬり)
- 溜塗(ためぬり)
- 布摺り(ぬのずり)又 布目(ぬのめ)
- 蒔絵(まきえ)
- 研出蒔絵(ときだしまきえ)
- 平蒔絵(ひらまきえ)
- 高蒔絵(たかまきえ)
- 平目地(ひらめじ)
- 梨地(なしじ)梨子地
- 色粉蒔絵(いろこまきえ)
- 切金(きりがね)
- 漆絵(うるしえ)
- 箔絵(はくえ)
- 螺鈿(らでん)
- 彫漆(ちょうしつ)
- 沈金(ちんきん)
- 蒟醤(きんま)
漆液は漆の木の幹部に傷をつけて掻きとる、手間のかかる作業である。採取は6月から11月頃まで、生育後10年ほどの漆の木1本から約200gが採れる。
漆の木から掻きとった漆に混入している木の葉や虫などを濾過して除去したものが「生漆」で、水分を多く含み乾燥が早いために、下地、拭き漆(摺漆)、接着などに使われる。しかし生漆のままでは塗料に適さないために、精製工程を経て精製漆とする。
精製工程で行う作業の一つ。生漆を木製の浅い容器に入れて摺り込むように攪拌(かくはん)する。この工程で漆の成分は均一に分散され、粒子が細かくなる。
漆液中の水分を蒸発させる作業で、天日・炭火・遠赤外線などにより、40℃以下に保って行われる。加熱脱水によって酸化が進み、色が黒ずんでくることから「くろめ」と呼ばれるが、黒漆とは別のものである。「なやし」「くろめ」の後、夾雑物を取り除いて濾過したものが精製漆となる。
精製漆は漆液を用途に応じて処理加工したもの。「なやし」「くろめ」の時間を調節したり、補助剤を加えたりして、各種の塗りに適した種類をつくりだす。精製漆は透漆と黒漆の2種に大別できる。
半透明の精製漆。透漆はさらに油を加えない無油漆と、油を加えた有油漆に分けられる。無油漆には梨地漆、木地呂漆、箔下漆、中塗漆、艶消漆が、有油漆には春慶漆、朱合漆、中花漆、並花漆、塗立漆、溜漆などがある。
漆の最大の特徴である「黒漆」は、精製段階で鉄粉を加えることでつくられる。鉄分の酸化と漆成分のウルシオールが科学反応を起こして、漆特有の深みのある黒ができあがる。黒漆にも無油漆と有油漆があり、無油漆には呂色漆、箔下漆、艶消漆、中塗漆が、有油漆には塗立漆、上花漆、中花漆、並花漆の種類がある。
朱、黄、緑、藍などの彩漆は、透漆に顔料を加えてつくる。朱は硫化水銀、紅柄は酸化鉄、黄は石黄を混ぜるか、天然鉱物顔料だけでなく、最近は着色したレーキ顔料を混ぜて多彩な色が出せるようになった。
漆は塗る素材によって、さまざまな呼ばれ方をしている。木を素地にしたものは木胎、竹に塗ったものは籃胎、布は乾漆、紙は紙胎(一閑張)、皮は漆皮、金属は金胎、陶器は陶胎、といった具合である。
素地に木を使ったもので最も多く用いられる。材料が豊富、細工が容易、軽量で扱いやすい、といった利点から漆工芸の歴史は木胎を中心に発達してきた。木地の種類には、加工法によって、挽物(ひきもの)、板物(指物)、刳物(くりもの)、曲物(まげもの)の4種がある。挽物は木材をろくろに取り付け、回転させながら削る技法。板物は板を接合して組み立てるもので、重箱や盆、膳などに使われる。刳物は木材を刃物で刳るもの。曲物は薄い板を曲げて側板をつくり、底板をはめたもので、小判型の弁当箱や丸い盆などをつくる際に用いられる。
細かく薄く削った竹を組んだり編んだりして成形したもの。籃胎漆器で有名なのは久留米と高松。漆をかける際に久留米は編目を生かすが、高松は編目を塗りつぶす方法が多い。竹を多く産出するタイやビルマでも盛んにつくられている。
布を素地にしたもので、麻・絹などを型にあて、漆で張り重ねて成形する。乾漆の技術は、とくに仏像彫刻の分野で盛んに用いられた。成形した後に型を抜き取る脱乾漆と、木の芯に布を張り重ねていく木芯乾漆の二つの技法があった。
木型に紙を張り重ね、漆で固める技法。紙も布と同様、漆との塗相性がいいので直接塗布する方法をとる。紙胎は2000年以上も前から行われていた技法だが、近世以降は中国から帰化した塗師・飛来一閑が創始した紙胎の技法にちなんで、一閑張とも呼ばれる。
動物の皮を水に浸して柔らかくし、木型にはめて乾燥させて成形したもの。どのような形も1枚の皮で継ぎ目なしでつくることかでき、軽く、こわれにくく、漆との塗相性もいい。奈良・飛鳥時代にすでにこの技法が始められ、正倉院にもいくつかの遺品が残されている。
金属を素材にした金胎、陶磁器を素材にした陶胎、また練物や樹皮、最近では合成樹脂のものなどがある
下地を施す方法、下地の上に重ねていく下地・中塗・上塗、各種の変わり塗、さらに仕上げの方法など、数多くの工程が加わり、その技法もさまざまである。
素地の形を補修し、堅牢にするための工程。普通はこの下地を終えてから中塗・上塗をするが、拭き漆(摺漆)、木地呂塗のように下地をしないものもある。下地には、本堅地、柿渋を使う渋地(しぶじ)や膠(にかわ)や米糊(こめのり)などを使用する方法もある。
下地の方法。砥粉または地粉を水で練って生漆と混合し、粗い粉末を混ぜたものをいちばん下に塗り、乾かしてからその上に順に細かい粉末のものを塗り重ねていく方法で、回数を重ねるほど丈夫な塗物ができる。
下地をせずに、直接漆を摺り込む技法。素地の美しさを生かし、表面を保護する目的で、生漆を綿に浸ませて摺り重ねる。
上塗仕上げの一つ、油分を混ぜた上塗漆を塗り放しで、表面を研磨しないで仕上げる方法。
立塗に対し、油分を混ぜない上塗を塗り、磨き仕上げをして艶をつけたもの。木炭で平滑に水研ぎし、研いだ表面を植物性の油と砥粉で磨き、さらに生漆を薄く塗り、乾燥したら種子油と磨粉(鹿の角を焼いて粉末にしたもの)で磨くという工程を何回か繰り返す。
呂色仕上げの一つ。木目を生かすために、下塗・中塗・上塗3回とも透漆を塗り、最後に磨き仕上げをして天然木目が透けて見えるようにする。赤または黄で着色する場合もある。春慶塗も木地呂塗に似ていて、木目を透かせて見せる塗り方だが、木地呂塗のように磨き仕上げをしない。
木地呂塗が3回透漆を重ねるのに対して、溜塗は中塗に朱・紅柄・青・黄などの彩漆を塗り、上塗に透漆を塗り放したもの。透漆を通して色が透けて見える。
変わり塗りの一種。木地の上に麻布などを張って漆器を堅牢にする技法。布着せともいう。布の上から下地をヘラで擦り込み、彩漆などを塗って磨き、布目の模様を浮かびあがらせる。
上塗して仕上げられた表面に、さまざまな技法で装飾が加えられる。それらの技法を総称して加飾と呼ぶ。日本の漆工芸の精緻な美をつくりあげてきたのは、この加飾の技法にあるといっていいだろう。主な加飾としては、蒔絵(まきえ)、螺鈿(らでん)、彫漆(ちょうしつ)があげられる。
最も代表的な加飾技法で、文様を漆で描き、金・銀その他の粉を蒔いて加飾する技法。研出蒔絵、平蒔絵、高蒔絵、肉合蒔絵、その他がある。
漆で文様を描き、乾かないうちに金・銀その他の金属のやすり粉(やすりで摺りおろした微紛)を蒔いて乾燥させる。その上に漆を薄く塗り、乾いたら砥ぎ出す。これは奈良時代から伝えられている技法で、蒔絵技法では最古のものといわれている。
金属の粉を細かくする技法が発達して生まれた。蒔絵粉と呼ばれる金属の細かい粉を、漆で描いた文様に蒔きつけ、磨ぎ仕上げる。今日では最も基本的な蒔絵の技法となっている。
平蒔絵にもう一つ工夫を加えたもの。文様を描く前に、前もってその部分を高く盛り上げ、金銀の粉を蒔く。この下地を盛る方法には、漆だけで盛り上げるものと、盛り上げた漆に木炭の粉末を蒔きつけて、その粉末を漆に吸わせて高くするものとがある。
金銀の粗いやすり粉を平らに薄く延ばして、大きさを揃えて蒔いたもの。
平目粉を精製した梨地粉を蒔き、透明度を高くした梨地漆をかけたもので、梨の肌に似ているためこの名がある。
蒔絵の一種であるが、漆で描いた文様の上に、金属紛の代わりに赤、青、黄などの顔料を蒔き仕上げる。ただし、ごく細かい金粉を顔料とともに使うこともある。
蒔絵技法を使って蒔かれた文様のなかに、金、銀の薄い板金を細かく切って張り付けたもの。桃山時代、高台寺蒔絵の技法の一つとして取り入られている。金粉以上に豪華な印象を与えるので、江戸時代には大名調度に好んで用いられた。
黒や朱、また黄や緑などの彩漆を用いて、文様を描いたもので、加飾技法のなかでは、最古のものの一つ。法隆寺の玉虫厨子の仏画にも、この技法で朱、黄、緑などの彩漆が使われている。
漆で文様を描き、乾ききらないうちに金銀の箔を張り付ける。乾燥後拭きとると、文様部分にだけ箔が残り、コントラストの強い図柄となる。古くは中近東あたりから始まった技法と考えられている。
夜光貝、蝶貝、アワビなどの貝殻をやすりで薄く削り、文様に合わせて切り抜き、漆を使って張ったり、埋め込んだりする技法。厚貝を使ったものを螺鈿、薄貝を使ったものを青貝と呼び分ける場合もある。
漆を素地に何回も塗り重ねて、文様を彫刻したもの。使われる漆の色によって、堆朱、堆黒(堆鳥)、堆紅、堆黄、紅花緑葉などと区別される。また、彫漆のバリエーションとして、沈金、蒟醤(きんま)、存清(ぞんせい)が挙げられる。鎌倉彫は、この彫漆を祖型として生まれた。
漆で上塗をした表面に、さまざまな形の沈金刀で面彫り、線彫り、点彫りの技法を使い、模様を彫る。そのなかに生漆を摺り込み、乾燥するまえに金箔や金紛を押し込む。乾燥後、余分な金を拭きとる。この技法はかつて中国、タイ、インドで栄えたが、いまではむしろ日本のほうが発展している。
籃胎(らんたい)または木製に漆を塗り、これに文様を彫刻していく。そこに朱、黄、青などの彩漆を詰めて砥ぎ出したもの。タイ、ビルマあたりの嗜好品であったキンマ(コショウ科の植物の実)を入れた器に施されていた技法だったところから、この名が付けられたという。日本では、高松がこの代表的な産地として知られる。